NeuCraftを始めるにあたり

「AIを使ってもっと多くの人たちに伝統工芸の魅力を伝えたい」そんな思いから始まったNeuCraftの第一弾プロジェクトとして、京都は宇治にて400年前から続く朝日焼さんとのコラボレーションが始まりました。
陶芸には造形や着色、焼き色や手触りなど様々な品質の要素があり、AIがその製作工程のどこに貢献できるのか、窯元の松林さんとも様々な議論を繰り返してきました。
制作工程において特に経験値が求められるのは焼成の工程で、プロセスをコントロールするには高い熟練が必要になり、また予期しないような結果を生み出す創造的なプロセスでもあります。また、「その時代の人々に受け入れられる焼き物を作っていく」ことを大切にしている松林さんからは、AIを使うことで自分の視点からは思いつかないようなデザインのアイディアを得たいという希望も出てきました。
折しもGANやDiffusionなどの生成AI技術が大きな発展を見せている昨今、CTCのAIビジネス部の開発チームもこの技術の活用に強い関心を持ってきました。400年以上続く朝日焼の伝統をAIがどのようにモデル化し、私達に新しいインサイトを示し、またそこから新しい作品のアイディアを生成することができるのか。そしてこのプロセスを通じてCTCのお客様に対しても新たな価値創出を提案できる可能性を探求したい。
歴史回顧的なデータ収集

今回私達はオリジナリティーの高いプロジェクトに挑戦するために、一般的にAIの学習に使われるようなオンライン上の画像データを収集するのではなく、朝日焼さんのご協力のもと独自の学習データセットの組成を目指しました。京都の宇治にある朝日焼の工房には、16代続く窯元の歴史的作品が収蔵されていて、その点数は数千点にのぼります。
学習に必要な写真の枚数は多いほどよいと言うのが本音ですが、角度やライティングなどの条件が揃った写真であれば数百枚から千枚程度の枚数でも面白い生成結果が得られる先行事例なども見つかり、今回は5日間に渡って1000点の作品写真を複数の角度から撮影することを目指しました。
朝日焼に伝わる巨大な登り窯の脇にあるスペースをお借りして背景とライティングをセットアップし、カメラ三台を投入して効率よく撮影していくことを目指しました。しかし、復数の角度から同時に撮影する際に、すべての角度において最適なライティングを作り出すことは思ったよりも難しいものです。一つの角度からの撮影で完璧なライティングだったとしても角度の違うカメラから見ると明るすぎたり、影ができてしまったりすることがあり、特に一日目の機材セットアップには思ったよりも時間がかかってしまいました。
今回対象とする作品の中には何百年も前に作られた貴重な作品も多数あり、細心の注意を払いながら撮影を進める必要がありましたが、時間とともにチームの動きもこなれてきて少しずつペースを上げ、最終的には目標としていた1000点の撮影を完了することができました。

そのようにして撮影されまた、フォトグラファーさんに後処理の色調整をしていただいたものの一例がこちらになります。撮影させていただいた作品は新旧どれもこれまでに見たことのないような大変美しいものばかりで、このような貴重な作品に触れさせていただいた事は私達にとって貴重な体験となりました。また朝日焼さんにとっても、今回の撮影で改めて作品群のカタログ化を進めることができたことを喜んで頂くことができました。
これからが本番

このようにして得られた写真を入力に、NeuCraft第一弾の本プロジェクトではこれから深層学習アルゴリズムを使ったオリジナルAIモデルの構築を進めます。非常に質の高いデータセットを得ることができたため、結果の質にも高いクオリティーが期待できます。最新技術を伝統工芸に応用するこのようなプロジェクトは世界的にもまだ珍しい段階なので、これから私達が発見する学びには答えのないことも多いと思いますが、何が起こるかわからない分、ワクワク感の大きな取り組みです。
このブログではこれからも本取り組みの各ステップにおいてプロジェクトの進捗やそこから学んだことを少しづつ皆さんと共有していきたいと思います。